中国の環境規制に悩む日系企業の現状と課題

MS&ADインシュアランスグループの季刊誌「RM FOCUS」2019年winter Vol.68に当社総経理の江頭が寄稿した記事が掲載されております。

RMFOCUS 第68号のダウンロードはこちらから ⇒ https://www.irric.co.jp/pdf/risk_info/rm_focus/68.pdf

当社の寄稿記事のダウンロードはこちらからから ⇒ http://www.steco.asia/pdf/190110_02.pdf

以下が寄稿内容となります。

 

環境 規制 違犯 法令 日系 監査 査察 違法 コンプライアンス 中国

やりたい放題の時代が終わった中国でのビジネス

昨日、JBPRESSより「やりたい放題の時代が終わった中国でのビジネス」とのタイトルで姫田小夏さんの記事が配信されました。    環境 規制 法令 違犯 日系

原文:http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55237

私も何度かブログでお伝えしていますが、「関係いいから何とかなる」中国はすでに過去の話となっています。

もちろん関係する役所や当局と友好的な関係は必要ですが、「違法行為」を見逃してくれる事はありません。※姫田さんの記事にも書かれていますが、以前は見逃し行為も普通にあったと思います。

当社では毎月日系企業の事業所環境診断(現状診断)を行っていますが、2018年の当社実績でみても80%以上の事業所で何らかの環境法令に違反する行為が存在していました。

日本企業が環境対策に対して意識が乏しいのか?と言うと、そうでもありません。

ほとんどが法令違反の自覚症状が無い状態で操業を続けています。

また、当社の診断により違法行為が発見された場合でも、その対策に時間を要してしまい、その間に摘発を受けるというケースも昨年は数件ありました。

対策にはお金がかかりますが、その予算決済で本社側とやり取りいている時間があまりにもかかりすぎている、もしくは予算を許可しないというケースもありました。

そもそも違法行為の状態であるのですから、コンプライアンス的にも予算などと言う事ではなく速やかに対策を施すべきなのですが、本社側の危機意識の欠如により対応が遅れているケースが多いと感じます。

この本社側の危機意識の欠如の原因は、「やりたい放題の中国」と言うバイアスがかかった状態で中国市場を見ている人が未だに多い事を示しているように感じます。

今年からは環境対策は一段と厳しくなりますが、多くの日系企業ではそれに対応する体制がとられていないのを危惧しています。

やりたい放題の中国は過去の話です。違法操業は直ちに是正し、リスクを回避してください。

中国政府は明らかに、「適者生存 不適者淘汰」の方針で産業構造の改革に取り組んでいます。

【中国・環境】セミナーのご案内

2019年2月18日(月)に東京にて「中国環境規制の現状と企業の対策」をテーマにセミナーが開催されます。

主催は三井住友海上火災保険株式会社、講演は当社総経理の江頭利将が担当させて頂きます。

参加登録は以下のサイトより行う事ができます。

https://ms-seminar.smktg.jp/public/seminar/view/932

東京での開催ですので、本社側のご担当者様にぜひ参加して頂きたいと思います。

【中国】2018年1月~11月 環境法令違反の処罰状況を公表

12月25日に生態環境部は微博にて2018年1月から11月までの環境法令違反処罰状況を公表しました。

1月~11月の環境法令違反による行政処罰件数は全国で16万6,210件、罰金・没収金の総額は135億9,700万元(約2,117億9,000万円)となっています。

最近日本のメディアなどの報道では、経済優先で環境規制の手を緩めたと言うような間違った報道が出ていますが、そのような事実は一切ありません。来年からは更に厳しく取り締まりを行う事を生態環境部は明言しています。

以下、全国の処罰状況です。

最近大きく問題として取り上げられているのが江蘇省の対応遅れです。来年より江蘇省は全国で最も厳しい取り締まり地域となるでしょう。

多くの日系企業では、日本国内で中国の環境規制強化に関する報道が出ると、本社からは現地法人へ「当社は大丈夫か?」と一応対応はしているようです。

現地法人は現地法人で担当スタッフ(多くはローカルスタッフ)に当社は大丈夫かを確認していますが、「問題ありません」と言う何ら裏付けや根拠のない言葉のみで納得し、本社へも「確認しましたが、当社は大丈夫です」と報告をしているようです。

何が大丈夫なのでしょう? 日本国内でも今年は多くの大手企業で偽装の不祥事がありました。社内の慣れから生じる慢性化したチェックは意味が無い事を示しています。

上述したように、中国の環境規制は手を緩めることなく益々厳しくなっています。中国事業所を運営している日系企業は、専門家により早期に監査を受けて正しい状況を把握する必要があります。

【中国】最近の環境規制の動向と企業の移転にあたっての留意点

MUFG BK 中国月報 2019年1月号が配信されました。

⇒ http://www3.keizaireport.com/jump.php?RID=364834&key=5126

特集では、「最近の環境規制の動向と企業の移転にあたっての留意点」が書かれています。

以下がポイントとなる点です。

日系企業が“化工園区”などへ移転する場合でも、現在の場所に残る場合でも、安定して操業を 続けるためには、今後は「汚染物質排出許可証」(以下、排出許可証という)を取得することが重要 になると思われる。

これらを自前で準備するのは容易ではないが、環境関係のコンサルタントを起用すればよい。いったん排出許可証を取得すれば、思いも掛けないことで処罰を受けるリスクは大幅に下がる。日系企業が処罰される理由は、汚染物質の排出基準超過、汚染防止施設や排出口の設置の不備、環境影響評価手続きでの違反など様々だが、それらのほとんどは排出許可証を取得し、上記の承諾事項を実行することでなくなる。
排出許可証の申請がこれからという業種の企業は、上記の申請条件に照らして自身の現状を点検し、適正に取得することが望まれる。 

【中国】環境規制強化に対応できない日系企業

最近、「当局より〇〇するようにと指摘(指導)があったのだが、その法的根拠が何なのか教えて欲しい」と言う相談が非常に多くあります。

多くの場合、調べてみると当局の指摘(指導)は法律に則しており適切な行為がほとんどなのですが、逆に考えれば指摘(指導)があるまで法律に則さず操業していた事とも言えます。

自社が環境関連の法令に準じて操業をしているのかどうか?まったく認識せずに運営している企業が未だに多くあります。

この問題は日系企業の場合は特に多い傾向にありますが、これは組織運営の仕組みに問題があるからです。

当局の担当者は当然ながら中国人、当局とのやり取り窓口となる自社スタッフは当然ながら中国人となり、日本人管理者はその内容を正確に理解(把握)できない状況にあります。

当局より説明を受けた自社中国人スタッフが日本人管理者に説明する場合、自社の通訳を介して行いますが、概ね総務部に属している通訳が行う事となります。しかし、環境関連の専門用語などについては一般の通訳では適切に翻訳する事は困難であり、この時点で正しく日本人管理者に当局とのやり取りについて伝わらない事が多々あります。

このように何が起きているのかが正確に把握できない状況下で運営を続けている訳です。

従って、冒頭に記したように「当局より〇〇するようにと指摘(指導)があったのだが、その法的根拠が何なのか教えて欲しい」と当社へ相談が舞い込んでいる状況です。

実際は、事前に当局からは担当スタッフへ説明などはあったはずずですし、指摘(指導)が出る前には何らかのアドバイスもあったと思います。

笑えない実話ですが、ある日系企業が環境法令違反で上海市環境保護局のホームページに違反企業として公開されたのですが、当社の取引先ではないのですが知り合いの企業でしたので総経理に「環境違反で大変でしたね」と話したところ、その総経理は「何のこと?」と自社が環境法令違反で摘発され上海市環境保護局のホームページで公開されている事を知りませんでした。慌てて、公開情報を教えて欲しいと言われ、こちらから公開されている情報をお伝えしました。

その後にわかった事ですが、この企業の場合は当局とのやり取りを全て中国人スタッフに任せており、そのやり取り内容も日本人管理者へほとんど報告が無いままだったようです。

全て担当者任せでやっており、法令違反してしまった事実すら日本人管理者に報告をしなかったのです。※怒られると思ったのでしょうが。

今、中国は本気で環境規制強化に取り組んでいます。政府も重要な課題だと認識して対応している状況に於いて、日本人管理者の危機意識欠如が実情で大きな問題です。

中国に於ける環境政策の動向と今後の予測

上海日本商工クラブ会報「上海明天」2018年秋号にて当社総経理の江頭が「中国に於ける環境政策の動向と今後の予測」というタイトルにて記事を寄稿しましたのでご紹介致します。

PDF版 → 上海明天 2018年秋号 上海日本商工クラブ 「中国に於ける環境政策の動向と今後の予測」

【中国】環境法令遵守は金融機関も無関心ではいられない

興味深い事案がありました。

6月28日に天津銀監局は平安銀行に行政処分を科しましたが、その内容は環境違反をしている企業に対して融資をした事での処罰です。※事由は、融資の事前調査不足で処罰されています。

天津銀監局:http://www.cbrc.gov.cn/chinese/home/docView/72DADDD519DD430CAA428275A3F198AD.html

関連ニュース:http://www.sohu.com/a/240374194_260616

この処罰の根拠は本年(2018年)1月13日に中国銀行業監督管理委員会より発布されました、《银监会关于进一步深化整治银行业市场乱象的通知》(银监发〔2018〕4号)となります。

中国银监会关于进一步深化整治银行业市场乱象的通知:http://www.cbrc.gov.cn/chinese/home/docDOC_ReadView/84BF855655F54ECDA63CBBD0048F6C15.html

この通知の中では、「违规为环保排放不达标、严重污染环境且整改无望的落后企业提供授信或融资」これら企業への融資を禁止する旨を通知しています。

※日本語訳:環境汚染物排出が基準を満たしていない、環境を汚染する、淘汰される落後業界企業などの企業への銀行保証・融資、これらを禁止するという通知です。

通知の冒頭を見てもらうとわかりますが、「各银监局,机关各部门,各政策性银行、大型银行、股份制银行,邮储银行,外资银行,金融资产管理公司」に向けて通知されていますので、日系のメガバンク(金融機関)も当然ながら対象となります。

しかしながら、未だ日系企業は危機意識に乏しく、更には相変わらず政府より紹介された環境コンサルに頼んだから大丈夫という、何ら根拠のない人頼みの体質が変わっておりません。この考え方では、永遠に呪縛から解かれる事はないでしょう。

すでに、様々な結果が政府から紹介されたコンサルに頼んでも無駄だった事が検証されているのですから、新たな発想と体制で挑むしかないのですが。

日本本社、日本人管理者が自ら状況を把握して指揮を出さなければ解決しないのですが、政府から紹介されたコンサルに依頼しても、当然ながら中国語でかつ専門分野ですので所詮は担当者任せになってしまい、永遠によくわからないうちに違反を繰り返す事となってしまいます。某日系空調メーカーは、2016年、2017年、2018年と同じ事業所が3年連続で環境違反で摘発されていますが、新たな体制と取り組みが必要でしょう。

※政府より紹介されたコンサルに問題があるのではなく、社内の体制に問題があるのです。

大手メーカーなど、日中両語で専門的に対応できる当社へ急ぎ全事業所の環境DD(デューデリジェンス)を依頼されるところも出てきましたが、日系全体として見れば0.1%にも満たないのでしょう。

上海だけでも毎月数社の日系企業が環境法令違反を起こしており、上場企業も多く含まれます。

日系企業の場合、多くは日系メガバンクとお取引をされておられますが、日系メガバンクも中国の法令に従い業務を行わなければいけないとなると、違反企業への融資はできない事となります。

おそらく、メガバンクの方たちも未だこの事の重大さを気付いていないのでしょう。

中国の環境問題は、中国で事業を行う製造業だけではなく、金融機関についてもコンプライアンスが問われる段階にきております。

中国政府が環境規制強化で操業停止も

本日配信のニュースで、デロイトトーマツの茂木氏が中国の環境規制に関して発言された内容が取り上げられました。

出展:https://this.kiji.is/386263242596828257?c=115337229812450809

茂木氏は「自社はもちろん取引先企業が環境規制対策をきちんと実行していることを改めて確認するとともに、万一操業停止となった場合の代替拠点も押さえておく必要がある」と述べられています。

最近ご相談が多い事例ですが、サプライヤー工場が環境違反により操業停止となってしまい、いつ頃再開できるのかもわからず右往左往されている日系企業様が増えてきました。

今までサプライヤーの環境監査をしっかりと対策してこなかったツケがここにきて大きな問題となっています。

多くの日系企業に有りがちなミスですが、自社及びサプライヤーもISOをしっかりやっているから大丈夫という、自己満足の世界で事業を続けておられます。

ISO認証、更新など、自己申告に基づき検査員がチェックするという、あくまでも自己申告に基づく資料を基本としています。

毎月上海市では4~5社の日系企業が環境違反で摘発を受けている状態が続いていますが、調べたところ摘発を受けた日系企業のほとんどがISO14001(環境マネジメントシステム)は取得されています。

中国の環境規制に伴う行政の監査とISO14001は何ら関係が無いことを結果が示しているのです。

大手企業のHPで紹介されている環境監査の項目を調べてみますと、どの企業も同じく内部監査とISO認証という事が書かれています。

ISOではなく、中国の環境規制に強い外部専門家による監査が無ければまったくリスク対策はできていない状態となります。

最近では大手企業などでは新たに環境対策の専門部署を作り、中国人スタッフを雇用する動きも出てきましたが、これは二次被害を招く結果となるでしょう。

急激に変化する中国の環境規制に関しては中国人と言えども専門家は少なく、またその少ない専門家は非常に良い条件で欧米系、ローカル大手にすでに採用されています。

十分な知識も経験もないスタッフを採用して環境対策をやらせても結果は望めないでしょうし、更には新たな問題(商業賄賂)も起きるだけでしょう。

最も重要なのは、正しく現状を認識し、計画を立て実施する事であり、その為には日本人管理者が状況を正確に把握する事です。

《上海市环境违法行为举报奖励办法》の施行

出典:http://www.sepb.gov.cn/fa/cms/xxgk//AC41/AC4103000/2018/06/99382.htm

上海市では2018年6月5日より環境保護に関する違法行為の告発を奨励する新たな弁法(規則)上海市环境违法行为举报奖励办法が施行されました。

改訂により告発者に支払う報奨金額の上限が従来は1万元だったのが5万元に引き上げられました。

環境局との関係が深い関係団体などからの話では、社員による内部告発が多くあるとの事ですが、今後は更に増える事となるのでしょう。

ある日系企業では今までローカルスタッフ任せで環境対策を行っていたのですが、総経理及び日本人管理者主体で環境対策を行うよう組織改訂し、外部専門会社に委託して改善を行う体制と変えています。

理想の管理体制とは?

〇正しい結果を導き出すには条件があります

〇これまで弊社の経験と実績から導き出された確実に、且つ大きな効果が出る二つの「方程式」が下図となります。

環境対策には体制改革が急務です!